遺産の一部を先に分割し、残りの遺産を後日にできるか
民法907条1項により一部分割が認められる。
民法907条1項は、「共同相続人は,次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で遺産の全部又は一部の分割をすることができる」と定めています。遺産分割においてその一部を先行して行うことは民法上認められています。遺産分割で争いのる遺産については後日協議することにして、合意できるものを先行して遺産分割をします。
一部分割は全員の合意と残りの遺産と明確に区別する
共同相続人間において一部分割であることを、残余財産と明確に区別した上で分割すると全員の合意が必要です。
先送りした遺産は10年過ぎると
民法904条の3は「相続開始時から10年を経過した後にする遺産分割は,具体的相続分ではなく,法定相続分による」と規定しています。
すなわち,被相続人が死亡(相続開始)してから10年が経過すると,原則として,寄与分や特別受益の主張ができなくなり,法定相続分を基準とした遺産分割しかできなくなります。(①10年経過前に家庭裁判所に遺産分割請求をした場合,②期間満了前6か月以内に止むを得ない事由が相続人にあった場合において当該事由消滅時から6か月経過前に当該相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をした場合,③相続人全員が具体的相続分での遺産分割に同意した場合,は例外)
令和5年4月1日(施行日)以降,寄与分や特別受益の主張をしたいと考えている側は,うかうかしていると時間制限を食らってしまうので注意が必要です。
残りの遺産に与える影響
先行する遺産分割が、法定相続分でなかった場合、残りの遺産について考慮するのかという問題があります。
先行と後攻の遺産分割を別個独立のものとする方法であれば、先行の遺産分割を考慮しなくてもよいですが、先行と後攻の遺産分割を一体のものとして考えるならば、後攻の遺産分割において、一部分割済みの遺産を加えて遺産全体を評価し、その上で、改めて各相続人の取得が額を算定し、一部分割の結果が不均衡の場合は残余財産の分配の際に調整する必要があります。
上記2パターンがありますので、一部分割の際には事前にどの方法で分割するのか決めておく必要があります。
未分割の遺産がある場合の税金の申告手続き
相続税の申告期限は相続開始から10ヶ月です。申告期限までに遺産分割がされていない場合、未分割の遺産については、民法の相続分に従って課税価格を計算するものとされています。つまり各相続人は法定相続分に従って申告手続きをすることになります。
その後未分割の遺産が分割された場合に、当該分割により取得した財産に係る課税価格が先に法定相続分の割合に従って計算された課税価格と異なる場合、税額が不足する場合は修正申告をすることで調整します。ただし4ヶ月以内に更生の申告をする必要があります。
配偶者の税額軽減が適用されない
配偶者は法定相続分(遺産の半分等)か1億6,000万円のどちらか、大きい額につき相続税がかかりません。しかし、遺産の一部が未分割の場合は、その分割されていない遺産部分については適用されません。