事業主の相続 小会社の事業承継
この記事で取り上げる内容
- 小企業の相続における株式の評価計算を解説
- 純資産価額方式の計算方法
- 上記を学ぶことによりご自身の会社の株価を把握し今後の対策を考える指針となります。
事業承継
事業承継とは、経営者が自身の会社や事業を後継者に引き継ぐことを指します。この際、株式や不動産はもちろん、役職や経営理念、知的資産など、会社や事業に関するあらゆるものが引き継がれることがポイントです。
事業承継の種類
- 経営者の親族による承継
経営者の親族によって事業を引継ぐことを言います。主に株式の売買、譲渡、相続によっ て承継します - 親族以外の承継(MBO)
社内の社員や役員、取引先、又は、外部から後継者を召還して引き継ぐことをいいます。経営のみを承継する場合と株式の売買による承継があります。一般的に規模の大きい会社で行われます。 - 合併と買収(M&A)
M&Aには、権利の移転有無により2種類に大別できます。狭義のM&Aは、「買収」、「合併」、会社分割」の3種類に大別できます。買収に含まれるM&Aの種類としては、株式買収、資産買収、株式交換型買収などがあります。合併に含まれるM&Aの種類としては、新設合併、吸収合併、持株会社方式などがあります。会社分割に含まれるM&Aの種類としては、簡易会社分割、留保会社分割、新設会社分割などがあります。 - 新規株式公開
新規株式公開とは、企業が新たに株式を株式市場に上場し、一般投資家から資金を集めることを言います。株式を公開することで、企業は株式市場から事業に必要な資金を調達することができます。また、会社の知名度も上がり、信用力も得られるメリットがあります2。
一方で、公開することで企業の情報が公開されるため、競合他社に情報が漏れるリスクもあるため、慎重に検討する必要があります3。また、上場後は株主への配当や決算報告などの義務も発生します。
上記のように、事業承継には種類があるが、今回は、非上場会社の親族内承継を解説します。
非上場会社の親族内承継
親族内承継においてその承継に株式の売買、譲渡、相続がありますが、非上場会社のばあい株式の価格が市場によって売買され公開されていないため各種評価方法によって価格を計算します。
原則的評価方式と特例的評価方式
取引相場のない会社の場合原則的評価方式と特例的評価方式のいずれかによって評価することになります。株式の評価方式がどちらになるかは評価対象会社の株式支配の割合によります。まずその会社が同族株主のいる会社か同族株主のいない会社なのかを区分し、同族株主が30%以上50%以下または50%超えかで判定します。他にも細かく判定要素がありますが割愛し、簡単に言えば原則的評価方式は多数の株式支配している人がいる場合と特例的評価方式は支配している人がいない場合といえます。
原則的評価方式
多くの中小企業においてその事業承継の多くは経営者が100%あるいはそれに近い株式支配をしていることがほとんどです。今回はそのような想定で原則的評価方式を解説します。
原則的評価方式は、評価する株式を発行した会社を従業員数、総資産価額及び売上高によって大会社、中会社、小会社と区分し原則として次のように評価します。
(1) 大会社
大会社は、原則として、類似業種比準方式により評価します。類似業種比準方式とは、類似業種の株価を基に、評価する会社の一株当たりの「配当金額」、「利益金額」および「純資産価額(簿価)」の3つで比準して評価する方法です。
なお、類似業種の業種目および業種目別株価などは、国税庁ホームページで閲覧できます。
(2) 小会社
小会社は、原則として、純資産価額方式によって評価します。純資産価額方式とは、会社の総資産や負債を原則として相続税の評価に洗い替えて、その評価した総資産の価額から負債や評価差額に対する法人税額等相当額を差し引いた残りの金額により評価する方法です。
(3) 中会社
中会社は、大会社と小会社の評価方法を併用して評価します。
下記の表にて区分してください。
今回は小会社の純資産価格方式のみ解説していきます。
純資産価額方式の計算方法は、まず、課税時期における評価会社が所有する各資産を相続税評価額により評価した価額の合計額(総資産価額)から、課税時期における各負債を相続税評価額に基づき評価した金額の合計額(総負債価額)を差し引き、純資産価額(1)を算定します。
次に、その純資産価額から帳簿価額の純資産を差し引くことで評価差額(2)を求め、これに42%を乗じた金額(3)(評価差額に対する法人税等相当額)を算定します。
最後に(1)から(3)を控除して法人税等相当額控除後の純資産価額を計算し、課税時期における発行済株式数で除して1株当たりの純資産の金額を求めます。
ここでいう「評価差額に対する法人税相当額」を控除するのは、会社を清算すると含み益が顕在化して所得が生じます。この所得に対しては、法人税等が約42%課税されることになるので、1株当たりの純資産価額の算出にあたっては、時価としての相続税評価額による純資産価額と決算書に計上されている取得価額に基づいた帳簿価額の差額(含み益)に対して清算時の法人税等相当額を考慮するものです。
1株当たりの純資産価額は、次の算式により求めます。
【例】
総資産の帳簿価額300
総資産の相続税評価額400
総負債の帳簿価額100
総負債の相続税評価額100
発行済株式数50株
算式で示すと以下になります。
総資産相続税評価額400-総資産負債相続税評価額100-評価差益(400-300)×42%=258〔純資産価額(相続税評価額)〕
258÷50株=5.16〔1株あたりの純資産価額(相続税評価額)〕
なお、各資産・各負債の価額については、本来課税時期に仮決算を行なって計算すべきですが、直前期末から課税時期までの間に著しい変動がなければ、直前期末の決算の金額を用いて差し支えないことになっているので、実務上では、ほとんどの場合直前期末の決算金額を用います。また、評価会社が自己株式を有する場合には、発行済株式数の中から自己株式数を控除しなければなりません。
純資産価額方式で株式を評価する場合の注意点
その他にも、純資産価額方式で株式を評価する場合には以下のことにも注意しなければなりません。
- 土地等(借地権も含む)や建物等については路線価や固定資産評価額を基に評価しますが、課税時期開始前3年以内に取得または新築した土地等家屋等の価額は課税時期における通常の取引価額相当額で評価しなければなりません。
- 繰延資産などの換金価値のない資産に関しては評価額をゼロとします。
- 評価会社が被相続人の死亡を保険事故として受け取る生命保険金については、その生命保険請求権を資産に計上しなければなりません。ただし、同時に保険差益に対する法人税等相当額については負債に計上することが出来ます。
- 評価会社が保有する取引相場のない株式の純資産価額を求めるときは、評価差額に対する法人税額相当額を控除することができません。
- 営業権の価額は、(1)、(2)のうちいずれか低い方の金額で評価します。
(1)課税時期の前年の所得金額(営業権の価額が高額と認められる著名な営業権はその3倍)
(2)以下の算式によって計算した金額平均利益金額(注1)×0.5-企業者報酬の額—総資産価額(相続税評価額)×基準年利率=超過利益金額超過利益金額×営業権の持続年数(原則として10年)に応ずる基準年利率(注2)による複利年金現価率=営業権の価額
注1:課税時期の属する年の直前期末以前3年間の経常的所得金額の合計額の3分の1の金額
注2:財産評価基本通達4-4に定めるところによる - 課税時期以前に賦課期日のあった固定資産税の税額のうち、課税時期において未払いのものについては負債に計上します。
- 課税時期に属する事業年度にかかる法人税額等、消費税額等の金額のうちその事業年度開始の日から課税持期に対応する金額は負債に計上します。
- 被相続人の死亡により相続人その他に支給することが確定した退職手当金、功労金、その他これらに準ずる給与の額は負債に計上します。
上記の計算により算定した株価を基に相続が発生した場合に、相続税が発生するのか?発生するのであれば生前に対策が必要となります。その把握のためにもまずは上記の計算によりご自身の会社の株価を計算することをお勧めします。