相続における使用貸借トラブル
使用貸借とは
使用貸借とは、借主が貸主から目的物を無償で借りて使用収益し、後にその目的物を貸主に返還する契約をいう(民法593条以下)。 借主は契約に返還時期の定めがあるときはその時期に、その定めがないときは契約に定めた目的に従い使用収益を終えたとき等に、 目的物を返還しなければならない。使用収益の対価を支払わない(無償)点において賃貸借と異なる。使用貸借には、その目的物が住宅やその敷地であっても、借地借家法(平成4年7月31日までの契約の場合は、旧借地法、旧借家法、旧建物保護法)は適用されない。
改正前民法593条では「使用貸借は、当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還することを訳して相手方からある物を受け取ることによってその効力を生ずる」と規定され使用貸借は要物契約とされていました。改正前の要物契約とは物の引き渡しがあってはじめて契約されるというものです。対して諾成契約は契約において物の引き渡しは必要ではなく、双方の合意があれば契約を締結することができます。
(使用貸借)
第五百九十三条 使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。
要約:「引き渡すことを約し」、つまり諾成契約です。
(借用物受取り前の貸主による使用貸借の解除)
第五百九十三条の二 貸主は、借主が借用物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。ただし、書面による使用貸借については、この限りでない。
要約:書面で契約しなければ物を借主が受け取るまではキャンセルできる。
(借主による使用及び収益)
第五百九十四条 借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない。
2 借主は、貸主の承諾を得なければ、第三者に借用物の使用又は収益をさせることができない。
3 借主が前二項の規定に違反して使用又は収益をしたときは、貸主は、契約の解除をすることができる。
要約:借主はきちんとした使用をしないとダメ、他者に勝手に貸してはダメ、それらをした ら貸主は契約解除できます。
(借用物の費用の負担)
第五百九十五条 借主は、借用物の通常の必要費を負担する。
2 第五百八十三条第二項の規定は、前項の通常の必要費以外の費用について準用する。
要約:基本的な保守管理に費やす費用は借主の負担です。固定資産税の支払いを借主がしていても対価性がなく必要費となります。
最高裁昭和36年1月27日「建物の占有者が建物の敷地の地代及び建物の固定資産税を支払つたとしても,右の如き地代及び固定資産税はいずれも建物の維持保存のために当然に支出ぜらるべき費用ではあるが,右は民法595条1項の『通常の必要費』に属するものというべきである」と判示されています。
(期間満了等による使用貸借の終了)
第五百九十七条 当事者が使用貸借の期間を定めたときは、使用貸借は、その期間が満了することによって終了する。
2 当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合において、使用及び収益の目的を定めたときは、使用貸借は、借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。
3 使用貸借は、借主の死亡によって終了する。
要約:期間を定めたらその期間まで、期間は決めなくても使用目的を決めてそれが終わったらそこまでとします。借主が死亡したら終了します。
しかし、夫死亡し使用貸借で借りている土地に家を建てて家族で生活していた場合など第597条3項は排除される可能性が高いといえます。判例でも排除されています。
【東京高裁平成13年4月18日判決】
民法五九九条は借主の死亡を使用貸借の終了原因としている。これは使用貸借関係が貸主と借主の特別な人的関係に基礎を置くものであることに由来する。
しかし、本件のように貸主と借主との間に実親子同然の関係があり、貸主が借主の家族と長年同居してきたような場合、貸主と借主の家族との間には、貸主と借主本人との間と同様の特別な人的関係があるというべきであるから、このような場合に民法五九九条は適用されないものと解するのが相当である。
(使用貸借の解除)
第五百九十八条 貸主は、前条第二項に規定する場合において、同項の目的に従い借主が使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、契約の解除をすることができる。
2 当事者が使用貸借の期間並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも契約の解除をすることができる。
3 借主は、いつでも契約の解除をすることができる。
要約:貸主は借主が使用目的が終わったといえる期間経過したら解除できます。貸主は期間、目的をお互い決めなければ解除できます。借主はいつでも解除できます。
また、借主の行為によって貸主との間の信頼関係が失われ、使用貸借を継続することが著しく困難となった場合には、貸主は使用貸借を解除することができます。(最高裁昭和42年11月24日判決)
(借主による収去等)
第五百九十九条 借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、使用貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負う。ただし、借用物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでない。
2 借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができる。
3 借主は、借用物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合において、使用貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が借主の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
要約:借主の収去義務、付属させたものは取り除く、ただ費用が過分にかかるときは別、借りていた物が損傷したら原状回復させる、借主の責任でない時は別とします。